小中陽太郎の自伝的小説『ラメール母』(平原社刊)にインスパイヤーされて、
魅惑のシャンソン歌手・碧川るり子さんがエモーショナルに歌い上げるシャンソン・ミュージカルが公演されました。
頂いた感想をご紹介いたします。

碧川るり子さんへ
ほんとうにおめでとうございます。台本、演技、歌唱、演出、舞台、照明、何拍子も揃った最高の舞台でした。これまでのコンサートやワインバーを見てきた人も、あまりの完成度に驚嘆していました。私が一番おどろいたのは(高校時代の友人服部もそうですが)、碧川さんが原作を深く読み込んだばかりでなく、原作にない多くの事実を引き出してくれたことです。たとえば、レインコート(松本さんのものだそうですね)。わたしは目の前の舞台に動いているのが、母か彩かソレイユか区別がつかなくなりました。観劇直後から、再演、名古屋公演と、夢が止まりません。
 もう下見してあるのですが、岐阜の関町のハイテク工場が、自前のホールをもっています。ホリゾントのガラスをとおして池が見えます。そこで、最終幕とか……。しかし、1日経って、はやる心を押し鎮めて考えると、あれだけ完成度の高いものを簡単にはいじれないし、やはり再演しかないと思います。でもここは、多くのプロが見てくれたのですから、彼らのアイディアもよく聞かなければなりません。
 わたしも来年に向けていささかアイディアをあたためていますが、そんなに先走りしないで、いまは公演の成果をじっくりかみしめるときかもしれません。とりあえず絶賛の渦ともいうべき感想を私のホームページに発表し、それがさらに波紋を広げることからやってみようと思います。編集は渡辺がやります。
 なお、井上ひさしさん、西木正明さんからきれいな花を頂きました。また帝国ホテルは、渡辺の長女美紀さん(勤務)のお骨折りによるものです。あわせて感謝します。
(小中陽太郎 2005.7.5)

碧川るり子様
橋本 二郎様
 昨夜はお疲れさまでした。すばらしい舞台でした。大衆演劇の大内良明という畑違いの放送作家も舌を巻き、「演劇としてすばらしい、客観性を保ちつつ、主張がきっちりとした(自分は右翼的な人間ですが)演出がすばらしい。木下という役者もとてもいい素質だ。碧川さんは3役を演じ分け、演劇性が高い」(今朝の電話)と絶賛でした。
 高校時代の友人で、俳優座を受けようとした(結局、三菱化成へ)服部などは、「幕があいたとたん、小中のおふくろさんが出てきたかと思った」と言います。そして、「演出はすべて碧川さんだ」といっても信じません。というのは「原作になく、自分たちだけが知っていることがたくさんあった」と言うのです。「もし、本当に小中が関与していないのなら、彼女は端倪すべからざる作家だ」と申しております。わたしも自分でわからないことがはっきりして、女のカン、いや作家の洞察力に鳥肌立つ思いでした。なお、服部は「エキサイティングな夜だった。この興奮さめやらぬうちにぜひ再演を」と強く申しております。 もう一人の友人も(彼も木下恵介に手紙をだし、結局に鉄屋=製鉄になりましたが)、「原作よりはるかにいい」といって帰りました。また感想がきたらお送りします。
 わたしのほうも、京都(ご夫妻)や名古屋(7人)から駆けつけてくれました。音響監督の鎌田雅人さんはシャンソンの手触りとスペクタクルを華麗にクリエートしました。松本美彦先生はよく勉強しています。照明の田向澄男さん、音響の関克郎さんたち、センスのいいスタッフに囲まれていますね。ゲネプロを一瞬ドアの隙間からのぞきましたが、本番前のあの直しをよく仕上げました。妻にも、すばらしい舞台だったと伝えました。
 なお、興行的にも大成功で、橋本さんにも拍手。これから朝日にベトナムのメッセージを送ります。ももこのアイディアです。
(小中陽太郎 2005.7.2)

小中陽太郎様
 大変いいお芝居でした。ミュージカルというには重い作品でした。
「愛と別れ」の見返しに「僕たちの夢に」というあなたのサインがあります。小栗喬太郎の評伝も「青春の夢」。陽太郎は、夢を原動力として生きてきたようですね。でも夢は、いずれ覚めるものとしてある。夢から覚めずに踏み外した者は、人生に戻れない。ソレイユが陽太郎を諭して言う「夢から覚めなさい」と。夢を共有しあったからこそありえた二人。自分の彫像に恋したピグマリオン。ミラボー橋の「月日は流れ、私は残る」をこんな風に使うとは!
 昨夜の、シャンソン・ミュージカル「ラ・メール」のヤマ場は、二人の脱走兵をかくまう覚悟を決める彩とのシーンです。このシーンから受ける感動は、実生活での戦いに立ち向かう彩の勇気と包容力に対するもので、ボクはここでも高校修学旅行のときの「小中のお袋さん」の大きさと優しさを連想していました。
 陽太郎がソレイユと共有しあった「夢」が、実生活では「スキャンダル」を繁殖させ、それが容赦なく彩を襲ったときも、彩はめげずに切り抜けましたね。さながら、「風と共に去りぬ」のラストに似たシーン。どうやら、碧川るり子さんは、戦う女性を演ずるのを得意とされているようにお見受けしました。
(服部様)

小中陽太郎様
 昨夕の「ラメール」はよくできていました。碧川さんは自ら原作をうまく脚色し、歌いのってました。観る側も多くのひとがアンスピレされていたようです。
 全体の印象として、母親主体というより、アヤとソレイユの神聖ネームのとおり、2人は主人公にアンスピラシオンの源泉となり、主人公に精神の高揚と平和行動を促す役割となる“女神”信仰劇になっておりました。それがかえって成功しておりました。主人公が導入部でギリシャ悲劇について若干触れていましたが、2人の女神はギリシャ悲劇というより、“逃げる”男を奮い立たせて、アリストパーネスの喜劇「女の平和」を聖化したように思われます。
 序の部は、母親のシテと木下君のワキ、更紗一枚の垂れ幕を旨く使って能舞台化し、中盤は女神たちの神聖劇を母親が彼方から見守って大キリで再現、一言オチをきかせて世代リレーに言及し、同じラ・メールシャンソンで終わる、複雑な構成にして面白していました。
 木下君のワキが、単なる狂言回しに終始するのではないか心配のタネでしたが、彼はなかなかの好演。さらに逃亡兵のインタビュー映像を更紗幕に映す転換手法で強烈な劇的効果を挙げていました。
 願わくば、この映像シーンを、主人公がいかに苦労して撮影し、保存してきたか、主人公の主体的行動の核心を語るナレーションがあったほうがよかったと思います。原文の日記体を生かすためにも母親の回想風ナレーションの録音構成でもよかった思います。
 気になったことは、中盤にセリフが多く、劇のトーンが菊田一夫の東宝現代演劇めいて単調になったような気がします。これを打破するためにも、上記のナレーションを挿入したほうがよかったのでは。歌にセリフと、碧川さんもこの辺では疲れていたでしょう。ひと休止の時間をおいて、能の橋掛かりをドラマ転換に使うように、録音構成に転換したほうが、この劇の変幻性効果を高めたのではと愚考いたします。
 もう一箇所、主人公とソレイユとの、東京打ち上げのシーンのバックで、ハイドンの弦楽四重奏曲「皇帝」の、今日オーストリア国歌になっている楽章、なぜここでオーストリアなのか選曲に難があります。フランス作曲家が当然選曲されていい、例えばベルリオーズ幻想交響曲の惚れた女優を追想するフレーズなど。
 観客は高年齢でしたが、大入りかつ盛り上がって何よりでした。ご成功おめでとう存じます。碧川さんと一座の益々のご発展を祈念いたします。
(水谷様)

小中陽太郎 様
 大好評でよかったですね。最初は良家のお坊ちゃんモダニズム、上海、恋人やら何やらで、ホーホーと溜息をついていましたが、しだいに演出、照明、碧川さんの演技が冴えてきましたね。
 シャンソン・ミュージカル――納得しました。そして、その愛と哀しみの陽太郎ワールドには、やはりベ平連への試行がドラマを鮮烈に成り立たせているのでしょうね。
 当方も若く京都で劇団結成、上演におよびましたが、現在は新作能に打ち込んでいるところです。また、いろいろお教えください。ありがとうございました。
 以下、愚生のホームページ「日録」に書いたもです。ほろりとさせられましたよ。
7月1日(金) 御用学者の大増税論罷り通るのか。
小雨。午後久方に赤坂に出る。懐かしい豊川稲荷界隈も折からの建設ラッシュ。
夜、草月ホールにてシャンソンミュージカル『ラ・メール』、小中陽太郎さんの自伝小説の脚色、シャンソン歌手碧川るり子主演。青春、ベ平連、平和活動をうたう感動のオリジナルスタイルのステージ。帝劇で好評だったミュージカル『ミス・サイゴン』ならざる陽太郎ワールド、ちょっとほろりとさせられる。

(太田様)

小中陽太郎様
 以前メールさせていただきました、六本木のスナック・ダカーポの客で、クラリネットを吹いております水越裕二と申します。先日の「ラ・メール」拝聴させていただきました。大変失礼ながら、その前の銀座のライブのイメージで当日うかがったので、あまりの素晴らしい舞台に大変感動致しました。
 僕は、うっかり「ラメール母」の原作をもとに、碧川さんが歌を歌い続け、そして時折、あの若い俳優さんが横で演技をするイメージでした。
 碧川さんの舞台は、今回はじめてでしたが、歌手という領域で当初見てしまったので、あのような完璧な舞台に、大変驚き、感動致しました。
 脚本や演出、そして音楽も素晴らしく、2時間近い舞台があっという間でした。そして、我々のようなクラシック音楽家では滅多にない、「休憩なし」というのには大変驚きました。すごい集中力だと。
 またどこかで再演はあるのでしょうか? 「ラ・メール」が1回だけでは、もったいないと、角倉さんもおっしゃっていました。機会がありましたらぜひ舞台へ伺いたいと思います。また、いつか何らかのかたちで、クラリネットと歌とのハーモニーで共演できれば……と夢が膨らみました。ご縁がありましたら、また小中さん、碧川さんにお会いできればと思っております。それでは、素晴らしい舞台を紹介いただき、大変ありがとうございました。

(クラリネット奏者 水越様)

小中陽太郎様
そちらから先に「お礼」のメールをいただいて恐縮いたしております。
本来ならばあの晩、草月会館から帰宅してすぐにもあふれる感想を述べなければならなかったのですが、文章を綴ることについ構えでしまう私は、 今回も後手に回ってしまいました。
 正直いって会場に入るまでは、「ミュージカルといったって、どのようなものになるのだろう?」と期待は半ばだったのですが、予想以上の本格的な上演にすっかり感心いたしました。ミュージカルというとつい劇団 「四季」あたりを連想するのですが、音楽が主としてシャンソンだったので私も素直について行けたのかも知れません。
 主演の碧川さんは、すばらしい人ですね。歌唱力も演技もしっかりしていて感心させられました。配する若い男性俳優も不足なく、音楽も、照明も効果的で、密度の高い舞台でした。筋はテーマがはっきりしていて、原著の膨大な内容がよく刈り込まれ(東大時代のエピソードがないのは私にとっては肩すかしでしたが)、ドラマが散漫にならないのはさすがでした。
 ノンフィクションと、それに基づくフィクションとしての作品との関係は微妙な問題ですが、作品としての自立性を備えていてこそ優れた作品といえるのだと思います。ミュージカル「ラ・メール」はその意味で優れた作品だと思いました。私自身、ちょうど今この問題に関わりがあるのです。7月22日に初演されるトムプロジェクト企画で平田満主演の演劇「ダモイ、ラーゲリから来た遺書」の主人公が、実は私の亡父だからなのです。実在の人物をもとにして、それがどのように舞台上で作品化されるか、目下私は興味津々なのです。
 会場を一杯埋め尽くした観客層にも驚かされました。各界の重鎮ともいうべき風格の方々ばかりで、さすが小中さんの交流関係の豊かさをよく示すものだとの印象をうけました。そのため、ひょっとしたら顔出ししようかと思っていた帝国ホテルの会の方は、押し出しの強くない私は遠慮させていただくことになりました。さぞ盛会のことだったでしょうね。
 今後のさらなるご活躍を期待いたしております
(山本顕一様)

小中先生へ
 楽しいミュージカルでしたね。ショーとしても完璧でした。陽太郎先生の青年時代は実物のほうがカッコイイんじゃないかな。それにしても、一大イベント、大盛況でおめでとうございます。

(コラムニスト 瀧澤陽子様)

小中先生へ
 原作をよく読み込んだ素晴らしいステージでした。とくに、実写フィルムを活かし、カーテンコールのベトナム平和委員会のメッセージに結びつけた「脱走兵」はみごとな演出だと感心しました。私の中学時代の同級生松尾和子は品川音大を出て、すぐに東海大学教授夫人となった人ですが、「小さなホールでしたが音響効果も良く、碧川さんの声は素敵でした。私好みです。それにしても、2人だけで2時間近くはハードですねぇ。とても感動的な舞台でしたよ」と感想を寄せてきました。3人の女性のなかでは、母親役が圧巻だったということは、碧川さんは小中陽太郎のマザコンを見抜いていたのかもしれません。
(平原社・編集者 渡辺勉様)

戻る

Copyright (C) 2004 Yotaro.Konaka . All Rights Reserved
無断転載は禁止します。