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私はカメムシです。ツバサの皆さんこんにちわ。はじめに注意をしておきますが私を“へっぴりむし”だ“へこきむし”などと失礼な名前で呼ばないでください。 今回はひょんなご縁から私がお話しましょう。花々が咲き乱れる季節になれば人々の心も踊るでしょう。我々虫々も同じなのです。まだ桜は満開にはちょっと早いですが、急く気におされてフラっと生まれ故郷の“美の山”に散歩に出ました。ですがなにせ羽根が短距離用に出来ているものでちょくちょく休むのですが、その休んだところがいけなかった。 なんでも東京とか神奈川というところから、朝早くから徘徊している物好きな一団のところに降りてしまったのです。“三芳PA”でああだとか、“秩父華厳の滝”はこうだったとか、途中で二人いなくなったとか、いろいろな話を聞いているうち、ヌマさんなる方が九州という遥か遠いところに行くというではないですか。常々長距離飛翔にあこがれている私は触角がヒクついて、ついつい魔がさして6脚でボタンを押してしまいました(もとい虫々はどこかの党の誰かみたいなアホ?はしません)つい一団のある背中にしがみついてしまったのです。 え!なんで虫なのに人々の言葉がわかるのかって、我々虫々にはゆとり教育も何もあったものではありませんが、特殊な能力があります。ドカドカと勝手に踏み込んできた道路工事現場のオッサンとか、花見の酔っ払いとか、洗濯物を取り込むオバちゃんの独り言から習得しました。だからもしも会話をしたとすると、けっこうなベランメイ調で訛りもあったりするはずですが、幸いにも声を出すことがありません。話を続けてもいいですか。 さあ旅立ちです。この一団、バイクなる物体で移動します。皆、殻の様なものを着けてはいますが背中には我々のように二対の羽根はなく、ちょっとエッチな画が書いてあるだけです。動き出すとこれがやけに速い。でも無線とかいうものから一団に“ギンヤンマ”とか“アカトンボ”という虫々の仲間が混じっていることも確認でき、速さにも徐々に慣れて、遠ざかる故郷をながめながら“奥武蔵グリーンライン”を右に左に走りまわる頃にはスッカリいい気持ちになっていました。 |
“狩場坂峠”で一休みして“鎌北湖”のジャスト満開を楽しみます。ここで空のような青い人(あとでウォーリアということがわかりました)に乗り移ってみました。 これがまあドエリャー速い。“圏央道”なるところでは更に速くなる。必死にしがみついて矢のように線状に一点にむけて流れ去る風景を見ているうちに、どうしても一点から湧き出てくるのであろう風景を見たくなりました。 いつもなら6本を一度に動かす脚を慎重に1本ずつ動かして登攀を続け、あと一息というところで突然体が上方に引っ張られました。とっさのひねり込みをくれたところで失神。気がついたら真っ暗闇で男のにおいがプンプンです。 どうもヘルメット後流に巻き込まれてツナギという殻のなかに閉じ込められたようです。徐々に複眼が慣れてくると、はるか上方に一条の光が、でもそこはあの激風が吹き荒れています。おちついてジイ虫の話を思い出せば、再び飛ばされて舞った場合、車ならその整流に乗って目を回すだけで済むこともあるらしいのですが、後に続いてくるバイクではまず無理。オイルクーラーやラジエターなどに当たれば千切り状態で挟まってミイラ化、ヘッドライトに当たっても熱線に焼かれてミイラ化、シールドに当たれば薄べったくなって中性洗剤で洗われるまで固着。ひどいものです。 一矢報いてやろうとしてもカメムシは甲虫ではあっても鋼虫ではないのでバイクをこわすなんて事はとてもできません。せいぜい変な半ヘル被ったオヤジのグラサンとドジョウひげの隙間へのカウンターパンチとなることぐらいしょうか。 バイクは相変わらず猛烈な速度のようです。いっとき「パトカーが行くよ!減速!減速!」などと絶叫が聞こえてなぜか急に静かになりましたが、まもなく元の状態にもどってしまいました。私は絶好の脱出の機会を失ってしまったのです。その後「今日はウッチーのレーダーと今ので2回助かったな〜」などと言っておりましたが私には意味がさっぱりわかりません。 え、なんで話が聞こえるのかって、それはウォーリアのしっかりした骨格を伝わってきた振動で理解するのです。実はこちらのほうが得意なのです。わかりました? さて私はどうすることも出来ないので闇に体を委ねていました。この闇の下方が二股にわかれ、そこが更なる危険地帯であることは本能と危険な匂いでわかります。 しばらくすると脚側が羽根側より温かくやわらかいことに気がつきました。つまり脚側が人々のお肌ということになりましょうか。試しにそこをbP脚で掻いてみると全体がヒクッと動きます。1,2脚だとヒクヒクヒクっとします。変則1,3,6脚掻きだとヒックンヒックンしながらギャっと声がします。レスポンスが良くて実に面白いので6脚全開触覚まで使って掻きまくりしたらウォーリア悶絶寸前、無線への反応も○△×☆★??★状態となってきました。 いくら面白いとはいえ無理な体勢でこちらも疲れます。少し休んでいるとウォーリアも落ち着いてきたようで「でもハチじゃないようで良かったよ」!!これがまだまだ虫が出来ておらず未熟な私にはカチッときてしまい、こともあろうにこの環境下で伝家の宝刀、あの「放屁」をやらかしてしまったのです。これは自らをも破滅しかねないほどの威力を持っています。 こんな武器を持っていることは人々(類)の愚劣さと共通です。 |
その効果は狭い空間ではもう超絶大でウォーリアもここで初めて私の正体がカメムシであることに気づいたようです。苦しさで徐々に思考力が鈍って来、掻き技にも力が入りません。これまでの人生、もとい虫生が一気に三角形の小さな頭を駆け巡ります。アリスの「帰らざる日々」がBGMでながれてきました。思えば奇異な虫生でした。まさかツナギの中で、それも自らの屁で死ぬとは。それも珍奇で悪くはないなあ、ああ意識が遠のいていきます。 と、突然ジジジッっという音がした瞬間、周囲がパっと明るくなり何人かのオヤジの目がこちらを凝視して私を探そうとしています。不思議な事にどの顔もとても愉快そうです。“石川PA”なるところに到着してウォーリアのツナギが数人掛りで開けられたのでした。失神寸前の私はホコリのように弾き飛ばされてある秘密の場所にはさまりました。それが幸いし私は発見されずに済みました。若干、加齢臭とガソリン臭がしますがこれほど空気が美味しいとは!!!徐々に思考も回復してきました。 どうやらこの一団もここで解散のようです。私もここで殻から逃げ去ると誰もが思うことでしょう。それが、意識が回復するにしたがいあの鼓動とスピード感が蘇ってくるのです。呼んでいるのです。この辺の気持ちはこの一団の誰に聞いてもらってもアホの一つ覚えのように、もとい異口同音に熱く語ってくれるでしょう。という事で再度この感覚を感じるべくあるメンバーのあそこにしがみつきました。誰の何処かって、それは絶対の秘密です。 というわけで五月も同行させていただきますのでよろしくお願いします。そうそう「屁」ですが今の時点であと数発分使用が可能です。くれぐれも私の取り扱いは彼女に接するがごとく、やさしくお願いいたします。 まだまだお話したいのですが事務局が巻き巻きなのでこれまでとします。長々と失礼いたしました。 ではさいなら【了】(カメムシ、代筆 熊谷) |
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